「今すぐ始めよう」「とにかく動こう」が地域を壊す理由― 行政主導の地域活性化に潜む危険性 ―

地域活性化の現場では、「今すぐ始めよう」「とにかく動こう」といったスローガンが、しばしば前向きな言葉として使われます。

一見すると行動力を称賛する、耳触りの良い言葉です。
しかし、この言葉が行政主催のセミナーで公式に掲げられる場合、そこには看過できない重大な問題があります。

活動量が評価軸になると、地域は迷走する

どんな分野でも同じですが、
「どれだけ動いたか」
「どれだけイベントをやったか」
が評価軸になると、目的と成果が完全に置き去りにされます。

・地域はどこへ向かうのか
・何が改善されるのか
・誰のどんな課題が解決されるのか

これらへの具体的なコミットが一切ないまま、「動いていること自体」が善とされる活動になります。

これは比喩ではなく、「糸の切れた凧」そのものです。

飛んでいるように見えて、どこへ行くのか誰にも分からない。
最終的に落ちた場所に意味はなく、責任の所在も曖昧です。

地域活性化に必要なのは「行動」ではなく「熟慮」

特に地域活性化は、
・人口構成
・高齢化
・生活インフラ
・地域内の人間関係
・過去の失敗事例

といった極めて文脈依存の分野です。

そのため本来、最初に必要なのは「今すぐ始めること」ではありません。

必要なのは、

  • 地域住民にとって、今いちばん困っていることは何か
  • 行政や外部人材が「やりたいこと」と乖離していないか
  • 活性化によって、誰が得をし、誰が負担を負うのか

こうした問いに対する熟慮の時間です。

この熟慮期間を飛ばして「とにかく動こう」と啓発するのは、問題解決ではなく、問題の先送りに過ぎません。

行政が主催するからこそ、より慎重であるべき

民間や個人の自主的な活動であれば、失敗も学びになります。
しかし、行政が主催・後援するセミナーは違います。

行政のメッセージは、「正しい方向性」として地域に受け取られやすい。

その行政が「今すぐ始めよう」「とにかく動こう」と発信することは、

  • 現状分析より行動を優先せよ
  • 立ち止まることは悪である
  • 悩むより動け

という価値観の押し付けになりかねません。

これは、地域の実態を十分に理解していなければ出てこない発想です。
逆に言えば、地域の現実を知らないからこそ出てくるスローガンとも言えます。

「とにかく動こう」は「夢を語ろう」よりも危険である

地域活性化の文脈では、「夢を語ろう」というフレーズも、しばしば批判の対象になります。

確かに、現実を直視せずに夢だけを語ることは、問題の先送りになりがちです。
しかし、それでもなお――
「とにかく動こう」は、「夢を語ろう」よりも危険だと言えます。

「夢を語ろう」には、最低限の目的地がある

「夢を語ろう」という言葉には、少なくとも
「どんな地域を目指しているのか」
という方向性が含まれています。

現実的であるかどうかは別として、

  • どこへ行きたいのか
  • 何を良くしたいのか

という目的地の共有が前提にあります。

つまり、「夢を語ろう」は、地図は雑でも、方角だけは示している状態です。

「とにかく動こう」には、目的も方角もない

一方で「とにかく動こう」はどうでしょうか。

  • どこへ向かうのか分からない
  • 何を改善するのか分からない
  • 誰の課題を解決するのか分からない

にもかかわらず、動くことそのものが正義とされます。

これは、目的地も方角も示さずに「歩き出せ」と言っているのと同じです。

結果として起こるのは、

  • 動いたが、何も変わらなかった
  • 活動は増えたが、疲弊だけが残った
  • 人によって目指す方向がバラバラになった

という状態です。

行動は「手段」であって「目的」ではない

本来、行動とは目的を達成するための手段です。

しかし「とにかく動こう」というスローガンは、その関係を完全に逆転させます。

  • 行動することが目的化する
  • 成果ではなく活動量が評価される
  • 立ち止まる人が「やる気がない」と見なされる

こうして、地域は考える力を失いながら動き続けることになります。

これは活性化ではなく、単なる消耗です。

夢よりも怖いのは「方向のない行動」

夢には、現実とのギャップがあります。
しかし、夢があるからこそ、現実との距離を測ることができる

一方、方向のない行動には、距離を測る基準すらありません。

「どこへ行きたいのか」が共有されていない以上、成功も失敗も定義できない。

その結果、

やった感だけが残り、
何も残らない地域活性化

が生まれます。

本当に必要なのは「動け」という号令ではない

地域に必要なのは、

  • 動くかどうかを決める前に考える時間
  • 夢と現実をすり合わせる対話
  • 動かない選択肢も含めた合意形成

です。

「とにかく動こう」は、こうしたプロセスをすべて省略する言葉です。

だからこそ、「夢を語ろう」よりも、はるかに危険なのです。

本当に必要なのは「始める勇気」ではない

地域にはすでに、「何とかしなければならない」と感じている住民が大勢います。

足りないのは勇気でも行動力でもありません。

足りないのは、

  • 問題を言語化する場
  • 立ち止まって考えてよいという安心感
  • 動かない選択も含めた合意形成

です。

地域活性化は、勢いで始めるものではなく、納得して始めるものです。

「今すぐ始めよう」という言葉が響くときほど、本当はこう問い直す必要があります。

本当に、今すぐ始めるべきなのか?
何を、誰のために、どこへ向かって始めるのか?

この問いを避けたままの地域活性化は、たとえ活動が活発でも、地域にとっては何も残らない可能性が高いのです。